午後の部はシンポジウムで、오정희さん、김중혁さんに、波田野先生、それから最近『楽器たちの図書館』を波田野先生と一緒に翻訳された吉原育子さんが加わり、様々に興味深いお話が発展しました。
ここにその全部はとても書ききれませんが、特に印象に残ったところを書き留めてみたいと思います。(メモはとっていないので、発言者のことばどおりではありません。雰囲気だけでもつかんでいただければと思います。
★新潟の印象について★
【오】日本は、石川と福岡。奥の細道の東北。東京での会議。についで4回目。新潟は、友人である波田野先生がいらっしゃるところで、今回訪問できて嬉しい。万景峰号が停泊する場所も訪れ、北朝鮮に渡った人たちに思いを馳せた。
【김】これまで東京へは何度か行ったが、地方都市は初めて。新潟と言えば『雪国』。今回のことを友達に話したら、「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」という小説の瞬間を撮影して来いといわれたが無理。新幹線の駅ごとに雪が降っていたり、晴れていたりお天気が変化するのがおもしろい。
★地方に住んで執筆活動をすることについて★
【波田野】今回のシンポジウムの目的のひとつは、地方からの情 報発信。先生方はおふたりとも、ソウルではなく地方都市に在 住し執筆活動をしていらっしゃる。
【오】35年前、大学教授である夫の赴任で春川に移り住んだ。若い作家にとっての刺激や様々なチャンスがない環境で暮らすことに、周りの人たちが随分心配をしてくれた。春川は水辺のある美しい町だが、水は、決して美しいだけのものではなく、その下に不安や陰謀などを隠し持っている。そこに住んでいる人たちの様々な悩みや逃れたい気持ちも大切にしたい。(波田野:雪も美しいが、雪国で暮らす人の苦労は並大抵でないのと同じ。)
【김】地方に住んでいると、ソウルでは簡単に手に入るものがなかなか手に入らない。制約例えば、入荷するレコード(CD?)の種類が少ないなど、文化的なものに触れる機会が制約される。その分、手に入れた数少ないCDを大切に何度も繰り返し聞いた。『楽器たちの図書館』に書いた音に対する思いは、こうした環境から生まれたともいえる。
★自分の作品が翻訳されることについて★
【오】韓国では、1980年代から海外に翻訳される機会が増えた。翻訳の話があると、まず自分の作品に関心を持ってもらえたことに感謝する。ただ、外国語に翻訳する際に、本当に自分が意図したことが十分に伝わるだろうかという不安を持つ。翻訳者の力量不足の場合は、その翻訳を信頼できないのではないかと思ったことがよくあった。海外に翻訳された作品が、自分の全く意図しない文体で紹介されていたことを後に知り、大変遺憾だった経験がある。作者は翻訳の良し悪しを確認できない。作者と作品を十分理解した上で翻訳してほしい。その一方で、翻訳の『創作的誤訳』により、作品に新たな魅力が加わることもある。
【김】作者の意図しないことが加わるのが翻訳の魅力。今回の『楽器たちの図書館』の翻訳に当たり、翻訳された二人が最終確認に韓国まで来てくださった。コーヒーに砂糖を入れる場面で、角砂糖か粉砂糖かという質問を受けたが、考えていなかった。こうして一文一文悩みながら丁寧に訳してくれていることを有難く思い、信頼できると思った。翻訳は、作家が創作するのと同じ位労力のいる仕事だ。
★翻訳者からのコメント★
【波田野】小説を翻訳しようと思ったら、その作家の書いたものはすべて読んで、作家の考え方を隅々まで理解する位のことが必要。背景となる文化や習慣などの理解も必要になる。例えば食事をする時に、箸を横に置くか、縦に置くかで動作の描写が変わってきたりする。
【吉原】小説の翻訳は、エッセイなどの翻訳と違い、言葉だけでなく作者の提供する「世界」を伝えなければならない。それが難しいと思った。何度も何度も読み返して悩みながら翻訳するのだが、先生方のお話を聞いて、改めて翻訳者の責任の重さを感じた。
質問タイムでは、こんな質問が。
Q:作品を書く際(海外の)読者を意識するか。
【김】小説を書くことは、読者に近づいていくことではなく、自分の世界をそこに作り出して読者を招待することだ。ドストエフスキーのカラマーゾフの兄弟が好きだが、読んでいて面白くない。しかし、そこに提供されているひとつの世界がある。一方、作家であるキム・ジュンヒョクAが、読者であるキム・ジュンヒョクBに作品を見せて意見を聞き、作品を直すことはある。
作家のお二人がこんなにも誠意を持ってお話くださり、しかも、ご自分たちもこのシンポジウムを楽しんでくださっているご様子に、会場がとてもいい雰囲気に包まれていました。目の前に、韓国の代表的な作家をお迎えし、曲がりなりにも韓国語で聞いてそれを楽しむことができるなんて、これまで韓国語を勉強してきて良かったな、とも思いました。また、翻訳についての意見が随分いろいろと交わされ、改めて翻訳の難しさと重要さを感じました。
今回は、『地方都市(新潟)からの情報発信』が目的の一つだったそうですが、十分、その効果があったように思いました。今後とも、こうした企画が日本で数多く開催されるようになるといいですね。
控室に訪ねて、サインをいただきました。

ぽにょっ会でご一緒していただいているはっちさんとそのお友達のサトコさんの素敵なレポートも是非ご覧くださいね。また、池袋で開催された『K-POPの次はK-文学でしょう!』のレポートはippoyoさんやふにゃさんのブログに掲載されています。
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